現在保育士として頑張っている方や、保育士を目指して勉強中の方!
『子どもに寄り添う保育』
という言葉をよく耳にしませんか?
現役保育士なら研修などで耳にしたり、学生さんは講義などで教わる言葉ですね。
でも実際、『子どもに寄り添う』ってどういうことか、いまいちピンとこない方もいるのではないでしょうか?
寄り添うって、“そばにいる”ってこと?
“そばにいる”とはちょっと違うかな・・・
寄り添うってどういうことか教えてー!
いいよ!具体例を挙げてお話しするね!
今回は、寄り添うということはどういうことなのか。
子どもの目線に立つという視点も加えながらお話ししていきます。
この記事を読めば、知らなかった方は1つ知識が増え、既に知っていた方は再認識するきっかけになるかと思います。
寄り添うとは
寄り添うとは、辞書では【もたれかかるように、そばへ寄る。】という意味があります。
さらに、『心に寄り添う』『気持ちに寄り添う』などの例題的文章が挙げられます。
辞書の意味だと、
こんな感じで、身を寄せ合う姿が思い浮かびますよね。
子どもにとっては、この姿も大切です。
しかし今回のテーマはこういう意味で捉えるわけではありません。
寄り添うとは、要するに『気持ちの問題』なのです。
“寄り添う”を文章で簡潔にまとめると・・・
- 子どもの気持ちを考えながらかかわること
- トラブルが起きた時、結果だけで判断せず子どもの表情や状態、言葉を聴き、状況を推測しようとすること
- どうしてこのような言動をしたのか、また、何も表現しようとしないのか、子どもの困り感を捉えようとすること
- 真摯に子どもと向き合おうとする姿勢を見せること
抽象的ですが、まとめるとこのような感じになります。
大まかに捉えるのであれば、
寄り添う=『子どもの気持ちを考えようとすること』
だと私は思っています。
では実際に私自身が経験した『寄り添うことが大切である』と分かる事例を2つご紹介していきます。
具体例を紹介
ここからは具体例をご紹介します。
【アルファベット+男=男の子】 【アルファベット+子=女の子】
で統一していきます。
(※トラブルの場合の、被害者・怪我をした子への声かけに関しては省略して書いています。)
T子が叩く理由 ー 年中の例 ー
6月、年中児、T子の例です。
ある日、室内でおもちゃで遊んでいたところ、T子が泣きながら友だちを叩いている姿を発見しました。
叩かれた子、周りの子の発言から情報を集めると、T子がいきなり泣き始め、叩き出したということです。
T子にも話を聞いたところ、「おもちゃを貸してくれなかった」という理由で叩いたということがわかりました。
さて、皆さんならどのように解決しますか?
どのような理由であれ、叩くのはだめだよね。
だから、「叩いたらだめだよ。おもちゃを貸してほしかったら貸してって言おうね。そして、ごめんねって謝ろう」とか?
うんうん。要点はついてるから悪くないんだけど・・・。
自分の意見を伝える前に、もっとT子に聞くべきことがあるかな。
え?なんて聞けばよかったのかな・・・。
ぽてとくんが言っていたように、
- 叩くことはだめなこと
- おもちゃを貸してほしかったら「貸して」と友達に伝えること
- 相手にごめんねと伝えること
この3点を伝えることは大切です。
しかし、まだ情報が集まりきっていません。
この状態では、大人の考えを押し付けて無理やり解決させたことになってしまいます。
では何を聞けばよかったのかと言うと
『T子は友達に「貸して」と伝えたのかどうか』です。
この情報があるか否かで色々と状況が変わってきます。
では、この情報がある状態で話を進めてみましょう。
T子に話を聞いてみました。
もりこ先生「T子ちゃんは、お友だちに貸してって言ったのかな?」
T子「ちゃんと言ったよ!でも聞いてくれなかった」
T子はちゃんと言ってたんだね・・・。
僕、T子が何も言わずに叩いたって決めつけてた。
そうだね。さっきのままだと、T子だけが一方的に悪い形で終わってしまうよね。
このように、T子が「貸して」と言ったのか言っていないのかで、状況が変わってきます。
もちろん、叩いたことは良くないことなので、肯定してはいけません。
しかし、T子が声を出して伝えていたのにも関わらず、叩かれた友だちが無視をしてT子の話を聞こうとしなかったのであれば・・・。
叩かれた子にも考え直す必要があり、T子だけが一方的に悪い状況にはなりません。
じゃあ、T子を無視していた子にも良くなかったということを伝えて、お互いごめんねと言うようにしなきゃいけないんだね。
そうだね!そしてここで重要なのが、
T子に『無視されて嫌だったんだね。辛かったね。でもね・・・』
とT子の気持ちに寄り添ってから、叩くことはいけないことだと伝えることが大切だよ!
ここでタイトルにある「寄り添う」が出てきます。
T子に「貸してって言ったんだね。なのに無視されて嫌だったね。」と伝えることで
『先生はT子の気持ち分かるよ』と、共感していることを表現します。
それだけでT子は気持ちが落ち着き、安心し、先生に対する信頼も深まり、さらには自分の叩くという行動はだめだったんだと素直に反省することに繋がっていきます。
このように、“寄り添う”とは『気持ちの共有・共感』という意味も含められるのです。
K男は悪者? ー 年少の例 ー
1月、年少児、K男の例です。
K男は元々、無差別な感覚でよく友だちに手を出してしまう、やんちゃタイプの子です。
その度にK男にはいけないことを伝えてきました。
保護者にも相談していますが、「男兄弟ですからね・・・」と深刻に捉えていない様子。
根気よく伝える必要があると感じていました。
ある日、K男がY男を押し倒すトラブルが起きました。
Y男は「K男に押された」と主張し、K男は無言でした。
周りの子たちは押し倒されたことしか分かっていない様子です。
さて、皆さんはどのように解決しますか?
正直、K男はいつも通りの感覚で手を出してるように感じるけど・・・。
でも、K男が無言なのも気になるね。
いいところに気づいたね!
確かに、普段のK男の様子を見ていると、
今回も気持ちが落ち着かなくて押し倒してしまったのかな?と思うよね。
でも、K男本人がどうして押し倒してしまったのか知りたいね。
あまりにも人に危害を加える回数が多いと、発達障がいを疑ってしまうことがあります。
ですが、K男は発達障がいの診断は受けていません。
担任も、グレーであるという認識はありますが、保護者はそのように捉えていません。
今回の場合、K男は普段のように手を出してしまったのではないかと感じ、押し倒してはいけないということを一方的に伝える流れになりやすいです。
K男のように頻繁に指導がいる子の場合は、「またなの?いいかげんにして」という気持ちがどうしても出てしまうため、保育者は冷静に対処できないことが起こるのです。
しかし、そのように一方的に叱られることが続くと、誰に対しても信用できなくなり、先生の言うことは聞かないという姿勢になってしまいます。
どれだけその子が言うことを聞かず、悪いところを直さない子であったとしても、その子と真摯に向き合うという姿勢は崩してはいけません。
根気よくかかわっていく必要があります。
では、今回の例ではどのように対処するとよいのでしょうか。
一番大切なことは、K男の話を聞くことです。
そのためには、無言を貫くK男のために『話を聞く場所を変える』ことが大切です。
どうして場所を変えるの?
その質問に答える前に、1つ考えてみよう!
無言であるということは、「話したくない」という気持ちの表れだよね。
どうして話したくないのかな?
『先生に怒られたくない』から?
もちろんそれもあるね!
ただ、他にも理由は考えられるよ。
たとえば、自分が先生に怒られそうな時って、周りの目線も気にならないかな?
そうか!友だちが見ている場所では話したくないんだ!
だから場所を変えるんだね!
その通り!よく分かったね!
場所を変える理由は、周りの目線が気になって集中できないから。
そしてもう一つは、場所を変えることでK男の気持ちをリフレッシュさせ、落ち着いて話ができる環境を整えるためなんだ!
これは、泣いていて全く埒が明かない状況の子にも適しています。
場所を変えることで、一度気持ちを落ち着かせることができるからです。
では、場所を変えてK男に話を聞いてみましょう。
(※保育室からは出ますが、他児の安全のため保育者からは横目で部屋の様子が見られるような場所で話をします。)
保育室を出て、周りの子からはK男の様子が見えない空間でK男と話をしました。
先生「K男くんはY男くんを押し倒しちゃったの?」
K男「・・・(無言)」
先生「今は怒らないから、正直に言ってね。ちゃんとK男くんの話を聞くよ」
K男「押した」
先生「そうなんだね。どうして押してしまったのかな?」
K男「だって、Y男くんがS男くんにいじわるしてたから」
まさかの、正義感!?
K男にも理由がちゃんとあったんだね。
このように、K男は普段、理由なく手を出してしまうことや、思い通りにいかなくて手を出すことが多かったため、いつもと同じかと思われてしまいそうでした。
しかし、今回の場合はちゃんと理由があったということに気づくことができました。
その後、Y男とS男にも確認を取り、事実であるということがわかり、それぞれの対応をしていきました。
Y男はS男に謝り、K男はY男に謝ったんだね。
そうだね。そして、ここでポイントなのは
正義感の末に行動したK男に対して、どう寄り添うかだね!
K男はS男のために、嫌がらせをするY男を押し倒してしまった。
押し倒してしまった行為は肯定してはいけませんが、
K男の『友達を守りたいという気持ち』は十分に褒めてあげましょう。
例えば、
先生「K男くんはS男くんのことを守りたかったんだね。K男くんはとても優しいね。すごいことだと思うよ。でもね、S男くんを守るためにY男くんを押してしまってはいけないよ。だって、K男くんが悪者になっちゃうよね。先生は、せっかく優しいK男くんが悪者になってしまうのは悲しいよ。」
このように、
K男の正義感を認めつつも、
わざと押すことは良くないと伝え、
さらにはK男がそういう行動をすると先生が悲しい思いをする
という3点を伝えることが大切です!
そして最後に、
先生「Y男くんがいじわるしていたら、まずはお口で『いじわるしちゃだめだよ』って言おうね。それでも止めてくれなかったら、先生を呼んでね!絶対助けてあげるから!」
というように、もしこう言う時はどうしたらいいのかを具体的に伝えましょう。
こうすることで、『先生は僕のことを分かってくれる。でも、だめなことはだめなんだ。大好きな先生を悲しませたくない!もしまたあったら、先生が言ったようにしよう!』
と、小さい子でも徐々にこんな考え方ができるようになります。
大事なのは、子どもの行動で良いところを認め、良くないところはしっかりと指摘し、最後はちゃんと先生が守ってあげるよという安心感を与えてあげることです。
先程、ぽてとくんともりこ先生の会話の中で、
どうしてその子が無言を貫くのかを考えている内容がありましたね。
「もし自分がK男だったら・・・」というように
子どもの目線に立って考えることで見えてくることがあります。
タイトルにある、『子どもの目線に立って、寄り添う』とは
子どもの気持ちを理解しようとするために、子どもと同じ感じ方で物事を捉えようとすることなのです。
筆者から
この記事を読んで、『子どもの目線に立って、寄り添う保育』について、理解を深めることができたでしょうか?
実際、私は担任やフリーとして25人前後の子どもたちを見てきましたが、毎回全部このように丁寧に対応できていたのかどうかを振り返ると、YESとは言えません。
毎日忙しく、気が休まらない仕事の中で、全ての事柄にゆっくり時間をかけてあげられないのが今の保育の現状です。
しかし、『子どもの目線に立って、寄り添う』という意味が理解できていて、極力意識して子どもたちにかかわっていこうという姿勢があれば、十分だと思います。
教え方が上手とか、たくさん走って遊んであげられるとか、保護者対応が上手とか、ピアノが上手なだけが良い保育士ではありません。
保育士は、子どもとちゃんと向き合おうとする姿勢があるかどうかが大事だと思います。
忙しい時でもふと、この記事のことを思い出して子どもたちとかかわってくださったら嬉しいです。
最後までこの記事を読んでくださり、ありがとうございました。
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